著者: | 重松 清 |
読み: | しげまつ きよし |
題名: | 『ナイフ』 |
出版: | 新潮文庫 |
発行: | 2000(1997) |
受賞: | 坪田譲治文学賞受 |
読了: | 2000/10/M |
評価: | B: ★★★★ |
感想: |
「悪いんだけど、死んでくれない?」ある日突然、クラスメイト全員が敵になる。僕たちの世界は、かくも脆いものなのか! ミキはワニがいるはずの池を、ぼんやりと眺めた。ダイスケは辛さのあまり、教室で吐いた。子供を守れない不甲斐なさに、父はナイフをぎゅっと握りしめた。失われた小さな幸福はきっと取り戻せる。その闘いは、決して甘くはないけれど。 なんとも不気味なストーリーばかり。基本的にはいじめだったり、異様なまでに「男らしさ」を求める父のもと苦しむ虚弱な男の子だったり、確かに現代日本の病理ではあり、教育家とかマスコミが「こんなに今の日本はひどいんですよ」と書き立てるエピソードと同じモノがこれでもか、というくらいに並んでいる。精神的につらいときに読んだらとても最後まで読めない。はっきりとしたハッピーエンディングもないし、「世の中こんなもんよ」という醒めた子供の捨て台詞にも似た結論で終わってしまう。それでも、後味の悪さというのは最小限。『舞姫』よりも救いがない、というのに。 「エビスくん」のように、ハッピーエンディングらしき物語もあるにはあるんだけど、それだけじゃない何かが短編集を通して読み終わった時には残っている。きっと、作者の重松さんがとても真摯に生きているから、そしていじめのような問題を、大人の世界の視点からではなく、子供、当事者の世界から描いているからなんだろう。お説教じみた話しはないし。 でも、難しいな。例えば、この本をいじめられている子供に渡してみよう、という気にはなれない。すごく残酷なような気もする。 |