著者: | 井上 章一 |
読み: | いのうえ しょういち |
題名: | 『つくられた桂離宮神話』 |
出版: | 講談社学術文庫 |
発行: | 1997/01(1986/04) |
受賞: | サントリー学芸賞受賞 |
読了: | 2003/02/16 |
評価: | C+: ★★★ |
感想: |
桂離宮には神話がある。「それまでほとんど無視されていたが、ブルーノ・タウトによって評価されその価値が認められるようになった」というもの。その神話の成立を資料と推測で明らかにする。また、作者自身は美しいとか素晴らしいと感じる「感性」がいかに枠組みに影響されるのかというより広いテーマの一具体例だと位置づけている。 結論は、(1)美術家建築家はタウト以前から桂離宮を評価していた。ただしモダニズムというタウト本人の意思とは異なる文脈で。むしろ自分たちの宣伝塔として利用していた。(2)一般大衆の認知・人気は離宮の公開非公開とほぼ比例して上下していた。神話の成立とは影響を与える面でも受けた面でもあまり関係ない。(3)いわゆる文化人知識人は神話の通りに考え、神話の通りに行動し、神話を補強した。--- 一般的な常識と思われていたことが実は文章を書く人たちの狭い世界の常識にすぎなかったという大事な指摘でもある。 社会科学・文芸批評の人たちからは「伝統の創造」という文脈で評価さられたらしく、賞賛やアイデアはいいのに文法が間違っているといったアドバイスがくる。しかしこれにはほとんど心を動かされなかった模様。一方、建築や建築史の人からはほぼ黙殺されたためカンカンに怒っている。本書も面白いが本書をめぐる著者周辺の反応も面白い。文庫版後書きに書いてある。これがあるから文庫本が好き。 |