著者: | 赤坂 真理 |
読み: | あかさか まり |
題名: | 『ヴァイブレータ』 |
出版: | 講談社文庫 |
発行: | 2003/01(1999/01) |
解説: | 高橋 源一郎 |
読了: | 2003/04/17 |
評価: | B+: ★★★★ |
感想: |
実世界との自分の生き様との間にある薄皮に、30女が裂け目を入れるまでを描いたロードノベル。 久々にいい小説を読んだ。言葉の力だけで目の前にもう一つの世界を構築し、読者をそこに引きずりこむ、そういう魔力と魅力を備えている。 メディアから絶え間なく流れ込み、ほとんど脳のレイプに近い「世の中こうなんですよ像」と日常生活の実感のずれは20代半ばの僕にとって大きな大きなテーマだった。30才を過ぎ会社で忙しく充実感に満ちた毎日を送っている今、それは意識の表面に葛藤として現れることは少なくなったが、決してなくなったわけではない。僕がこのずれをある程度克服できたのは、一旦メディアから流れてくる情報に耳をふさぎ、身の回りの人に必要とされていることだけに目を向けたからだった。「○○だからあなたが必要」を頼りにだんだん「○○じゃないけどあなたが必要」という家族友人の声に身をゆだねられるようになり、またメディアの「世の中こうなんですよ」が「編集」された情報であることを認識し、距離を保てるようになった。 『ヴァイブレータ』では素朴粗暴な男に女(ジェンダーとしての女ではなくセックスとしての女)を刺激してもらうことでリアルな世界への回帰を実現させている。姫野カオルコと同じパターン。田口ランディにも通じる。頭でっかちになりすぎた現代人に体を経由して原点へ回帰することを訴える、ここはちょっと安易で残念。でもそこまでの過程がおもしろいから許す。 好きな作家トップ10に入る作家のうち三人がそろって同じことを言っているのはちょっと考えさせられる。... 頭で考えていてはダメ、というメッセージを受け止められずにまた考え込むというジレンマからの脱出が必要だな。 |