著者: | 小熊 英二 |
読み: | おぐま えいじ |
題名: | 『<民主>と<愛国>―戦後日本のナショナリズムと公共性―』 |
出版: | 新曜社 |
発行: | 2002 |
読了: | 2003/09/21 |
評価: | A: ★★★★★ |
感想: |
『単一民族神話の起源』『「日本人」の境界』に続くナショナリズムへの新しい光を当てる試み。1950年代から90年代にかけて、知識人が「民主」「愛国」というキーワードをどう受容したのか、戦争体験がそれへどう影響したのか、などを丁寧に掘り出す。丸山真男、大塚久雄、吉本隆明、竹内好、三島由紀夫、大江健三郎、江藤淳、鶴見俊輔、小田実などが主な対象となっている。個人だけではなく、もちろん思想一般、政治思想(保守対革新)の潮流、それぞれの潮流の中の濃淡や変化矛盾なども丁寧に描き出す。 日本国憲法が成立する際の与野党の攻防なども面白い。左翼系野党の「アメリカの押し付け」という批判を保守系与党が振り切って成立させた憲法だった、しかもことはそう単純ではなく云々というスリル。吉本隆明が上の世代の戦争協力をあそこまで徹底的に糾弾したのには理由があった、という納得。 新しい歴史教科書を作る会などのネオ・ナショナリズムがなぜおかしいのか、直接の回答とはならないが間接的背景的なバックボーンを与えてくれる書となっている。 この本についての書評の多くは絶賛であったが、中に「あんなの、当たり前のことがコンパクトにまとまっているだけではないか(労は認めるがオリジナリティはない)。いかに最近の人がモノを知らないかを逆照射しているに過ぎない。」という意見があった。確かに僕はこの本を読むまでいろいろ知らないことが多かったが、戦争から帰ってきた兵士たち、学生運動に敗れた世代が口を噤んだことが原因ではないのだろうか。 |