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バンコク会議とは? にゅうずれたあ目次へ

(2)意見収集結果から見た基本方針と実施要綱+発題
大友 宣



JOCSではバンコク会議の度に基本方針と実施要項(以下P&P)が議論されてきました。第1回ではP&Pの作成の方向を探り、第2回ではP&Pの見直し・確認が中心的議題として取り扱われ、第3回では独自プロジェクト方式、クリスチャン条項にからめて、特に熱い議論が交わされたと思います。現在P&PはJOCSの憲法のようなものとして存在しているようです。しかし、「(前略)内にいだかれている信仰や理念は言葉や文字に表現しようとしてもなかなか完璧を期しえない。従ってこの文書は改訂を許さない最終的なものではない。それゆえ、この『基本方針と実施要項』は本会の事業を遂行するにあたって、聖書と聖霊の導きを受けつつ死文としてではなく、生きた基準として活用されることが望まれる。(後略)」とP&Pのまえがきにも書かれているように、常にこれが基準となるように議論すべき事が表現されています。
 さて、意見収集結果からP&Pについての記述を抜き出してみるとそれほど多くはありませんでした。バンコク会議に取り上げたいこととしてP&Pの検討・再検討という意見がときどき出てきていました。しかしながら、P&Pはこれから問題提起として取り上げる、組織改革、バンコク会議の位置づけ、事業、ミッション、キリスト教、スタッフ・ワーカー、会員の各論点と直接、間接に関係しています。したがって、JOCSのミッション、それを遂行するための手段・組織形態を考えるにあたっては、常にP&Pを想起せねばならないことは言うまでもない事だと思います。それゆえに「はじめにP&Pありき」ではなく、聖書と聖霊、そして、現実に即してP&Pは議論され、変わるべきでないところは変えず、変えるべきところは思い切って変えていく必要がある様に思います。以下に雑然とではありますが、意見収集や準備委員会の講演、議論の中で特にP&Pが深く関わる部分について述べて、P&Pに対する問題提起にしたいと思います。

1、 目的は明確か?現状に合っているか?
第二章 目的
本会は、聖書の「私があなたがたを愛したように、あなた方も互いに愛しあいなさい」という言葉に従うため、東南アジアをはじめ海外の医療に恵まれない地域にキリスト者医療従事者派遣し、またそれらの地域から医療関係のキリスト者留学生・研修生などの招聘して、その地域の人々の問題や苦悩を共に背負いながら、それらの人々の自主的な医療事情向上の努力に協力することを目的としている。またこの事業を支援する人々の輪を広げることによって上記の精神を普及することも目的としている。
この目的は制定時に聖書の箇所が「人間は皆兄弟」となっていたのを第2回バンコク会議で変更した以外には変わりなく、JOCS設立当時の事業形態を色濃く反映しています。1961年に書かれた『社団法人日本キリスト教海外医療協力会趣意書』(「アジアの呼び声に応えて」p70)にも医療従事者派遣と留学生招聘が中心をなす事業として書かれています。
しかしながら、JOCSの現在の事業では"医療関係のキリスト者の招聘"よりも、キリスト者あるいは協力団体の医療従事者への奨学金援助が中心となっており、"医療従事者の派遣"のみならず、独自プロジェクト方式、少額資金援助、など協力方法も多様化してきています。上記の文章中にはそういった"方法"も書かれているのですが、このP&Pに掲げられた"方法"が現在の事業の多様化に対応できるのか、または、現在の事業の多様化がP&Pに照らして基準通りと言えるのかは、議論の余地のあるところであると感じられます。P&Pの目的の部分はJOCSのミッションを示す重要な部分であると感じられます。主の示された困難にある人と共に苦悩を背負おうとするときに"医療従事者の派遣"や"留学生の招聘"といったこちら側のとる"方法"を目的の中に記す事によって出てくるメリットもデメリットもあると思います。"JOCSのミッションは何か?"ということを考えるならば、この文章も見比べつつ考えるのが良いのではないかと思います。

2、 P&Pに書かれている協力形態は的確か?適格か?
上記の話とも重なりますが、P&Pは作られた当時の事業形態を色濃く反映しており、「目的」の章のみならず、全体としてやはり"長期型医療従事者派遣"を念頭に作られているように感じられます。章立てを見てみると、沿革、目的、基本方針、組織と運営、財務、海外派遣、研修生、国内活動、改訂規定となっています。独自プロジェクト・資金援助・研修ワーカー(この規定はP&Pの「海外派遣」と「研修生」の項目を足して2で割ったくらいなのかとも思いますが)、などはP&Pの中では明確には規定していないように思われます。ただし、何でもP&Pの中で規定するのは如何なものかとも思います。このように考えますと矛盾するようですが二つの懸念が出てきます。ひとつは「P&Pが足枷となって現状に合う事業形態ができなくなる恐れ」、もう一つは「P&Pに規定がないために箍(タガ)がはずれてしまう恐れ。」もちろん、このようにならないためにミッションを大切にする理事会があるという議論もあるかとも思いますが、「大事なことはみんなで決めましょう」という姿勢も官僚主義に陥らない様にするためには必要なことではあると思います。ちなみにP&Pは 総会で承認されなければ改訂できませんが、規定は理事会の承認で策定され、改訂されています。
このことはシステムとして、ひとつ目の危険に陥る恐れは少なくても、ふたつ目の危険に陥る可能性はそれよりは高いということでもあると思います。これからの時代、P&Pに何を規定するのか?あるいは何を規定しないのか?ということはミッションとそれを遂行する方法を考える際には重要であると思います。

3、 契約形態
現在JOCSに雇用されている、あるいは、JOCSと契約しているのはワーカーと事務局員です。P&Pではワーカーの登録・契約・承認に関してかなり詳しく述べられています。一方で事務局員の雇用に関してはあまり規定されていませんし、その他、評価などに関する記述も少ないと思います。現状では"事務局員の強化"、"事務局員は国内ワーカー"という声も聞かれるようになり、また、事務局員として海外派遣される、事務局員が評価活動に参加する、ということは、主にこの10年のJOCSの大きな変化であるように思います。このように現状では事務局員がワーカーに近い、あるいは、同等の働きを求められて、実行されてきていると思うのですが、少なくともP&P上ではそうはなっていないと思います。また、どういう人をワーカーとして海外へ送り出し、どういう人を事務局員として海外へ送り出すのかということも一見恣意的なようにも思います。ワーカーに注がれる視線と事務局員に注がれる視線もかなり違うように思います。休暇や研修などの待遇もずいぶん違うように思います。このことはワーカーと事務局員は組織図の上では同じ"実行部隊"の中にい ながら、契約が終了してワーカーは"方針決定部隊"の理事になることは比較的多いものの、事務局出身者が理事になることは少ないという事とも少なからず関係があるかもしれません。どのような人をワーカーにして、どのような人を事務局員にするのか?あるいはどのようなことをそれぞれに求めるのか?ふたつの雇用形態があるならばバランスよく両方を考えていくのがいいのではないでしょうか?

4、 クリスチャン条項
報告書を読む限り、前回のバンコク会議ではクリスチャン条項に関してかなり突っ込んだ議論がなされていました。ワーカー・奨学生・カウンターパートのことについて発題があり、カウンターパートに関する議論が最も深く掘り下げられた部分であると思います。議論をふまえて、ワーカーはクリスチャンであることは自明、奨学生に関しては"クリスチャンあるいはJOCS協力団体に属する人材"ということでクリスチャン条項に半分遵守、カウンターパートに関してはカンボジアにおいて「相手国キリスト者の参与を求める」(これがどのような形でなされたのか調べることができませんでしたが)という努力目標になったのだと思います。P&Pを見てみますと、目的の章に「キリスト者医療従事者の派遣」「医療関係のキリスト者留学生・研修生」、海外派遣の章に「海外派遣ワーカーは一年以上日本キリスト者以下連盟の会員」というのが、いわゆる"クリスチャン条項"に関する部分だと思います。P&Pの中ではバンコク会議で議論されたようにカウンターパートに関する記述もありませんが理事・社員・事務局員などに関するクリスチャン条項は載っていません。誰が協 力者となり、誰が考え決定し、誰が実行し、誰と共に、誰に仕える〔あるいは、誰と(に)協力する〕のか?と考えると、JOCSではどの"誰"の部分にキリスト者が入るのだろうか?それは明言する必要がある部分もあるのではないか?とも思います。

5、 全体として
 全体としてP&Pを見てみると、まえがき、沿革、基本方針といった"基本方針"に関する部分は非常に優れた文章で、現代でもよくあてはまる、あるいは、もっと時代の先を行く内容であると思います。そのあとの実施要項の部分は概ね優れた内容ではあると思いますが、時代の流れに対応しきれていない部分もあるように思います。P&Pのひとつ目のPの部分はあまり変える必要はなくとも、ふたつ目のPは、ひとつ目Pから導き出されるミッションをどのような社会情の中で、どのような協力形態・雇用形態をもって遂行していくか、と考える中で時代に合わせて変えやすいようにするのが良いのではないかとも思います。ひとつ目のP−基本方針とふたつ目のP−実施要項を分割することによって、"P&Pを変えましょう"と言ったら実際"ギョッ"とする人は多いと思うのですが、実施要項を時代に合わせましょうとなれば"ギョッ"とする人はもう少し少ないのではないでしょうか。その上で現在事実上実施要項のようになっている規定もみんなで議論して実施要項の中に入れていくということになれば、外部にも内部にももう少し風通しの良い要項が できるのではないかなあと思います。


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